日本では、2050年に向けてのカーボンニュートラル目標や2030年度の温室効果ガス排出削減目標(2013年度比46%)が掲げられております。
目標達成のためには、日本のエネルギー消費量の約30%を占める建築分野が重要なポイントであると言われております。2022年6月17日には『脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律』が公布され、建築物省エネ法が改定されました。この建築物省エネ法の改定には、省エネ住宅導入の義務化が明記されております。
ここでは、新築するすべての住宅等に関わる省エネ住宅制度について説明しています。
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家庭内のエネルギー消費を抑制するために設備や建築資材を活用した住宅のこと
省エネ住宅は、通常の住宅と比べて断熱性や気密性が向上しており、防露性や換気性も優れております。冬季には室内の暖気が逃げにくく、夏季には窓から入る太陽熱を遮るため、快適な環境を維持することにつながります。
家庭内で使用されるエネルギーのうち、約30%が冷暖房に費やされると言われております。そのため省エネ住宅は、冷暖房にかかるエネルギー使用量を削減することで電力消費を減少させ、同時にその住まいの住人が快適な暮らしを享受できる環境を提供します。省エネ住宅は地球にも人々にも優しく、環境に配慮された住宅と言えます。
断熱性能
地価公示法に基づき不動産鑑定士が土地の価格を評価して結果を公示する制度のこと
断熱とは、内外の熱を伝達しにくくして住まいの快適性を向上させる技術のことです。
高い断熱性能を持つ住宅では、冬季には暖房によって室内の温かさが逃げにくくなり、外部の寒冷な空気から室内を守ります。また夏季には、外部からの暑さが室内に侵入しにくくなり、快適な室温を維持できます。これにより、冬は暖かく夏は涼しい状態を保つことができます。
室内の熱が壁や窓を通じてどれだけ外部に逃げるかを示す指標としてUA値(外皮平均熱貫流率)があります。UA値が低いほど住宅の省エネ性能が高いと言えます。従って高い断熱性能を持つ住宅は、暖房や冷房に頼らずに快適な室内環境を維持することができると言えます。
日射遮蔽性能
日射とは、太陽からの放射エネルギーのことを指します。室内に入る日射を抑制する性能を日射遮蔽性能と言います。
高い日射遮蔽性能を持つ住宅では、日射による室内の温度上昇が抑えられ、冷房を使用する際に必要なエネルギーを最小限に抑えることができる特長があります。
住宅の日射遮蔽性能はηAC値という指標で示されます。この値が低いほど住宅の省エネ性能が高くなると言えます。従って日射遮蔽性能が高い住宅は、快適な室内温度を保つために冷房のエネルギー使用を最小限に抑え、省エネ効果を高めることができると言えます。
気密性能
気密性とは、建材同士の隙間を最小限にして空気の流れを制御することを指します。室内外の熱移動を防ぐためには、高い気密性を保つことが重要です。
高い日射遮蔽性能を持つ住宅では、日射による室内の温度上昇が抑えられ、冷房を使用する際に必要なエネルギーを最小限に抑えることができる特長があります。
建材同士の隙間の広がりを評価する指標をC値と呼びます。C値が小さいほど気密性が高い住宅と言えます。ただし気密性だけを追求しますと、室内の空気質が悪化する可能性があるため、適切な換気も重要となります。
省エネ住宅には複数のバリエーションが存在します。これらの住宅はすべて地球環境を考慮しており、CO2排出の削減を目指すために開発されておりますが、それぞれ異なる重点項目や認定条件が存在しております。
以下は一般的な省エネ性能を持つ住宅の種類になります。
ZEH住宅(ゼッチじゅうたく)
ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)
2050年の脱炭素社会実現を目指す政府のイニシアティブに基づく省エネ住宅の新たな評価基準
ZEH住宅は高い断熱性と気密性を持つ外部構造と、エネルギー効率の高い設備を採用し、同時に太陽光発電などの再生可能エネルギーを活用して家庭のエネルギー消費を抑制します。これにより年間の一次エネルギー消費量をほぼゼロに近づけられると言われております。
ZEH基準には、Nearly ZEH(ニアリー ゼッチ)やZEH+(ゼッチプラス)など異なるバリエーションがあります。
LCCM住宅(ライフ・サイクル・カーボン・マイナスじゅうたく)
LCCM
住宅の建設から使用、解体・廃棄に至るまでの全工程において排出されるCO2を削減することを目指す住宅
LCCM住宅は、ZEH住宅と同様に年間の一次エネルギー消費量をほぼゼロにするコンセプトを持つものですが、その要件はZEHに加えて、より厳格な基準を持っています。例えば太陽光発電パネルの容量が8kw~9kwという高出力や、UA値が0.5以下という優れた断熱性能などが求められます。
LCCM住宅は、単に省エネと創エネだけでなく、長寿命住宅としてもポイントを置いております。そのため、長期間にわたって高いエネルギー効率と環境への配慮を保ちつつ、建物の寿命を延ばすことにも力を入れております。
長期優良住宅
長期優良住宅
2009年6月に制定された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づいて設けられた国の認定制度
長期優良住宅は、高い品質と長寿命を備えた住宅の普及を促進することを目的としております。
これまでの住宅は、古くなったら壊して新しく建て直すスクラップ&ビルド型の考え方が主流でしたが、長期優良住宅はストック型として知られ、持続的に住み続けることを目指しております。特に家を取り壊す際に発生する廃棄物の量を減少させるという地球環境への利点が含まれております。
2022年10月以降は、長期優良住宅に申請する際の条件が変更されております。断熱性能は4から5に向上し、一次エネルギー消費量は5から6に増加しております。これにより長期優良住宅の基準がより高い要求水準に合致することとなり、長期優良住宅はZEH基準と同等のレベルに達することが求められます。
スマートハウス
スマートハウス
太陽光発電で電力を生成し蓄電池を通じて電力を蓄え IT技術を駆使して電力の効果的な使用を実現する省エネ住宅
スマートハウスの主な設備には、太陽光発電システム・リチウムイオン蓄電池システム・自然冷媒ヒートポンプ式電気給湯機・省エネ家電・HEMS(home energy management system)などがあります。
ZEH住宅が「年間の一次エネルギー消費量を概ねゼロにする住宅」を指すのに対し、スマートハウスは自家発電で得た電力を家庭内で賢く効率的に使用することを目指すのが主な目的です。
認定低炭素住宅
低炭素住宅
地球温暖化の主な原因である二酸化炭素の排出を削減するために特定の仕組みや設備を取り入れた住宅
2012年にエコまち法(都市の低炭素化の促進に関する法律)が施行され、低炭素建築物認定制度に認定された住宅のことを認定低炭素住宅と呼んでおります。
長期優良住宅が長期間にわたって高品質を保つ住宅であるのに対し、認定低炭素住宅は省エネルギーに特化しております。
省エネ住宅制度の義務化は、2025年4月以降に新築されるすべての住宅を対象に、省エネ性能の基準適合が義務化いたします。
義務化することへのメリットには、快適な室温環境に加え、地球環境の問題や家の長寿命化があります。義務化に対するデメリットとしては費用が挙げられます。一般的に高気密・高断熱の取り組みをするには、通常の住宅建築よりも初期のコストが高くなるためです。
ただし、この取り組みのメリットでもある光熱費の削減や住宅の長寿命化があるため、長期的な視点で考えた場合、経済的なメリットが得られることがあります。
住宅建設は、将来の長期的な利益を考慮して予算を計画することが大切です。将来のエネルギー費用削減や住宅の耐久性の向上といった側面を考えますと、高い初期コストも長期的な視点で見れば必ずしも損ではない投資と言えます。
省エネ住宅のためにかかるコストを抑えるため、補助金制度を活用することが可能です。2023年度には、以下のような補助金が利用できる可能性があります。
【低炭素住宅・高断熱住宅等普及促進事業補助金】
- 高気密・高断熱な住宅の普及を支援するための補助金です。省エネ性能を高めるための工事や設備導入に対して経費の一部を補助します。
【再生可能エネルギーの導入促進に関する補助金】
- 太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを導入する際に、その費用の一部を補助する制度です。省エネ住宅にエネルギーを供給するシステムを導入する際にも利用できます。
【エネルギー消費量削減に向けた取組補助金】
- 省エネ性能向上に向けた機器や設備の導入に対して支援する補助金です。省エネルギー家電や給湯機器、断熱材の導入などに利用できます。
これらの補助金は、省エネ住宅の建設やエネルギー効率の向上を支援するための制度であり、コスト負担の軽減に役立つことがあります。地域や条件により異なるため、ハウスメーカーや工務店で情報の詳細を確認することが大切です。
省エネ住宅制度は、省エネ住宅の新築やエコリフォームの普及を図るため、すでに導入されているものですが、必ずしも導入しなければならない決まりはありません。2025年4月以降は、新築住宅を対象に省エネ住宅制度が義務化になるため、費用を抑えた家を建てたい場合は、2024年内までに計画しておく方が良いでしょう。ただし省エネ住宅制度には、補助金制度を利用することでコストの軽減が可能なため、快適な室内環境で生活するのであれば、省エネ住宅制度を利用した方が将来的には費用を抑えることにもつながります。
地域により補助金制度は異なるため、お住まいの地域情報を確認し、十分にシミュレーションしてから家を建てるようにしましょう。
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